第1回山陰研究報告会

公開日 2007.03.01

2006年11月29日(水)、第1回山陰研究報告会を開催いたしました!


0601「IT(Information Technology)活用による地域振興・産業創出に関する比較研究」
野田 哲夫(法文学部 教授)
「島根県におけるITを活用した産業振興の現状と課題」

 今回は島根県におけるITを活用した産業振興、およびIT産業を対象にした調査研究を中心に行ってきた。IT活用による全国市場に向けて展開、生産・供給し、地域にとって貴重な「外貨」を獲得していくことが期待や成果と、技術革新と市場獲得の競争に地域経済も常にさらされることの二面性(産業振興と経済格差)がより具体的に浮き彫りになった。同時に行政の産業振興策が「ばら撒き型」から「フォローアップ型」へと転換しなければ効果を発しないことも認められる。今後は具体的な事例に対する研究面でのフォローアップが求められる。
 また、県外では過疎地域において地域活性化に積極的にIT活用に取り組む徳島県上勝町や高知県馬路村の事例を調査を中心に行ったが、ITや電子商取引の取組の中での浸透度の濃淡も課題ではあるが、取組自体がワンマン化し人物のキャラクターに依存してしまうことの是非が問われた。IT活用を効率的に進めようとするならば専門知識を持った者が中心となり地域全体での広がりを持てないことが如実に示されている。短期的には生産・流通の効率化と市場拡大につながっても、地域住民や主体性を持った地域振興策としては疑問が残る。
 対象とすべき課題が明確になったところで今後より県外の関連した事例の調査分析と、比較研究が求められる。


0401「山陰地域伝存の古典籍資料に関する基礎的調査研究」
蘆田 耕一(法文学部 教授)
「近世末期の出雲歌壇と和歌山」

 今回の発表は、特に嘉永四年(1851)と同六年に上梓された、出雲大社の神官富永芳久(1813~80)の手に成る『出雲国名所歌集 初編』と『同 二編』に見られる両国の歌人を対象にした。
 大社別当の千家俊信(1764~1831)が松坂在の国学者本居宣長(1730~1801)の門人であったことから両国の交流が始まるといってよい。宣長は和歌山でたびたび国学を講じている。彼の養子大平(1756~1833)が和歌山に定住して交流が深まっていく。俊信の門人芳久はたびたび赴き、大平の養子内遠(1792~1855)に教えを請うたのを皮切りに、神官たちがたびたび遊学している。この交流から、芳久が歌集を編むにあたり、『出雲国風土記』等の地名を和歌山の歌人たちに詠ませるのである。さながら両国歌人のオンパレードといった感がある。