山陰地方における歴史・文化資源の発掘と活用に関する 研究プロジェクト

[萌芽研究プロジェクト]

期 間:2007年度(1年間)
代 表:田中 則雄 (法文学部教授・国文学)

 

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研究会・報告会 

 

概要

◆目的

 山陰地方には、出雲大社やその関連の文化、たたら製鉄の史料や遺構など多くの歴史・文化資源が存在しており、島根大学をはじめとする研究機関等において調査研究が行われてきたが、現時点で未発掘のものも多く残っている。また従来の調査研究成果についても、研究者内部で流通するに留まっている部分が多く、地域住民に向けての公開などの取り組みも、個々の研究者やグループによって個別的に行われているというのが現状である。
 本プロジェクトは、山陰地域の歴史・文化資源の発掘、調査研究、及びその利活用の方法構築に向けての取り組みを、人文・社会科学系の研究者が共同で組織的に行うという新しい試みである。なお既に昨年度までに実施した法文学部山陰研究センターにおける研究プロジェクトによって得られた研究成果に基づきつつ発展を図るものである。
 「ひと」「まち」「なりわい」をキーワードに設定し、過去の時代における山陰地域の人々の生き様を掘り起こし、具体的に描き出し、地域住民に向けて発信することを目標とする。まず出雲歌壇に由来する和歌作品、たたら製鉄、歴史人口等のテーマに沿って、従来の調査研究を一層深化させる。次にその成果の可視化に重点的に取り組む。データベースの作成、貴重史料のアーカイブ化、GISを用いての視覚化などを進める。また初学者向けのリーフレット等の印刷物も作成する。更にこれらの成果物を使用しつつ実際に地域社会で歴史・文化資源を利活用するための方法構築に向けての研究を進め、また実践も試みる(展示会やワークショップなど)。

◆本研究に関係するこれまでの準備状況など

 平成18年度萌芽研究部門研究プロジェクト「島根県における歴史的文化遺産の景観復原に関する学際的研究-石見銀山・出雲大社・松江を中心として-」(代表・舩杉力修)において、城下町絵図を中心とする歴史的文化遺産に関する調査研究成果を電子化の方法を活用して公開したという実績がある。本プロジェクトはこの実績と方法を更に発展させようとするものである。また法文学部山陰研究センター研究プロジェクトにおいて2004年度から3カ年にわたって,「山陰地域伝存の古典籍資料に関する基礎的調査研究」(代表・蘆田)、「宗門改帳データベースによる出雲・石見地域の生活様式の比較史研究」(代表・廣嶋)、「IT活用による地域振興・産業創出に関する比較研究」(代表・野田)などの関連研究を実施してきた。これらの研究プロジェクトに参加した研究者が本プロジェクトに参加し、既に得られた調査研究成果やデジタル化の方法等関する実績を活かしつつ、新たな進展を図る。

◆2007年度の研究計画と目標

「文学資源」「歴史資源」「利活用方法構築」の3チームによって構成し、定期的に共同研究会と会議を開くこと、また常時チームの枠を越えての共同作業の態勢を維持することとにより、プロジェクト全体の連携を保ちつつ研究を進める。
【文学資源チーム】
 「ひと」「まち」の研究として、出雲歌壇関係の和歌関係資料について調査研究し、出雲歌壇という歌人のネットワーク、出雲の地名を歌に詠むことの意義等の問題を明らかにする。また島根県立図書館入谷文庫の資料の調査研究を行い、山陰漢詩壇の活動の実態を明らかにする。
 「なりわい」の研究として、本学附属図書館所蔵の堀文庫の蔵書を調査研究し、近世後期・明治初期における津和野の貸本屋を通じての町の人々の読書の実態を解明する。また医学分館所蔵の大森文庫の蔵書を調査研究し、近世後期安来の大森三楽における医業と文業の連関のあり方を明らかにする。
出雲歌壇関係の和歌関係資料に関しては、電子的方法による公開、利活用に向けて必要な解説文を作成し、また目録作成、貴重資料の翻刻紹介を行う。入谷文庫に関しては目録を作成する。堀文庫・大森文庫に関しては、紹介冊子の発行に向けて必要な解説文を作成する。
【歴史資源チーム】
 「ひと」の研究としては、初代松江市長・福岡世徳、地域史料の記録者・田中梅治、島根県屈指の大地主・佐々田懋の3人について、関係史料の調査、整理・分析を行い、地域振興に果たした役割を研究する。また、石見銀山領の宗門改帳を用いて、村々の出生率・結婚率を分析し、人びとのライフコースを具体的に明らかにする。「なりわい」の研究としては、近世期、明治前期、松江藩におけるたたらの生産と流通についての地域文化史的観点から史料分析を行うとともに、島根県最大のたたら経営者で山林大地主である田部家の所蔵文書の整理と目録作成を進める。「まち」の研究としては、前述の福岡市長に関する分析を行うとともに、地域の歴史的分析の一環として、『出雲国風土記』の近世、近代における注釈・研究書と関係資料に関して調査し、目録を作成する。
以上の研究の成果は、翻刻を終えた史料のウェッブサイト上での公表、目録作成等により、広く公開する。
【利活用方法構築チーム】
文学資源、歴史資源の両チームの基礎作業と連携しつつ、データベース、デジタル画像、GIS等の電子的方法、また冊子等の紙媒体を用いての可視化を行う。
行政、教育、産業と連携した歴史・文化資源の利活用のあり方について、実践と試行を通じて、その方法構築を行う。
地域資源を活かした自治体産業政策、歴史・文化資源を活かした観光政策について具体的提言をまとめる。
パンフレット・ホームページ等を活用した地域資源の情報発信に関して、効果的方法を研究し実践する。
本研究の研究実践成果を、将来的に「フィールドミュージアム」化を視野にいれた大学周辺地域資源の調査研究と利活用にどのように活かせるかを明らかにし、課題等をまとめる。

研究参加者

※プロジェクト代表者は★を付す。

  • 田中 則雄 (法文学部教授・国文学)★
  • 蘆田 耕一 (法文学部助教授・国文学)
  • 要木 純一 (法文学部教授・中国文学)
  • 竹永 三男 (法文学部教授・日本史学)
  • 廣嶋 清志 (法文学部教授・人口学)
  • 相良 英輔 (教育学部教授・日本史学)
  • 大日方 克巳 (法文学部教授・日本史学)
  • 野田 哲夫 (法文学部教授・情報経済論)
  • 飯野 公央 (法文学部准教授・経済政策)
  • 作野 広和 (教育学部准教授・人文地理学)
  • 会下 和宏 (ミュージアム准教授・博物館学・考古学)