戦争遺跡の調査・保存活用をめぐる学際的研究

山陰研究プロジェクト2203 

期 間:2022-2023年度
代 表:岩本 崇(法文学部 准教授) 

目的

 本研究の目的は、島根県内の戦争遺跡とりわけ旧海軍大社基地遺跡群を対象に、考古学・歴史学・アーカイブズ学・博物館学・土木工学・建築学・地質学の学際的研究によって、その建設の実態を把握し、その成果をふまえたうえで山陰における戦争遺跡の保存活用の展望を切り開くことにある。戦争遺跡としての大社基地の存在は、列島の周辺にあたる山陰地方がアジア・太平洋戦争に直面したことを実証するものであり、これを保存活用して平和学習の教材とすることはきわめて大きな意義がある。また、広く一般市民が平和学習を通してかかわりをもちうる戦争遺跡を具体的対象とした文理融合研究は、「学術知の公共化」にも多様な視角をもたらすと考える。

大社基地遺跡群の地下壕

大社基地遺跡群主滑走路02

上:大社基地遺跡群の地下壕/下:大社基地遺跡群主滑走路

研究発表・報告

  • 2022年度

進捗状況

◆2023年度の研究計画と目標

 考古学分野では分布調査と並行して、とくに重要と思われるコンクリート製地下壕の詳細な3次元計測を実施し、さらなる考古学的情報の蓄積を図る。また、建築学、土木工学、地質学による調査成果をふまえつつ、他地域の航空基地遺跡との比較検討を通して各種遺構から大社基地遺跡群の特質を浮き彫りとする
 さらに、大社基地に関連する歴史資料や聞き取り調査の結果をとりまとめたうえで、大社基地がもつ特色の背景を明らかにする。
以上の成果にもとづいて大社基地遺跡群を平和学習に生かす具体的な方策を明示し、戦争遺跡保存活用の意義を発信する。

◆2022年度進捗状況

 大社基地遺跡群を対象とした各種の調査を実施した。まず考古学分野は、コンクリート製地下壕の分布状況の確認をおこなったうえで、iPad Lidarによる簡易的な三次元計測を実施し、基礎的な情報整備に努めた。土木工学分野では、主滑走路のコンクリート舗装のサンプリングをおこない、強度圧縮試験ならびに中性化深度試験などの分析を実施した。また地質学分野では、コンクリートに含まれる礫のサンプリングを実施したうえで、石材にあわせた効果的な分析手法の開発と原産地同定が可能かを検討した。
 大社基地をめぐる文献史料として、槇原吉則氏から提供をうけた資料群の詳細目録の作成をおこなった。
 大社基地遺跡群の評価を全国的な視野からおこなうため、各地の戦争遺跡の踏査をおこなうとともに、現在の保存・活用状況について確認した。

iPad Lidarによる大社基地地下壕の3次元モデル 大社基地地下壕の外観
(左:iPad Lidarによる大社基地地下壕の3次元モデル/右:大社基地地下壕の外観)

◆2022年度の研究計画と目標

2022年度は大社基地遺跡群の実態把握をおこなう。そのために、考古学・歴史学・土木工学・建築学・地質学による調査および分析を実施する。たとえば、考古学的には大社基地遺跡群を構成する遺構の分布調査をおこないつつ、特徴的なものについては簡易的な3次元計測などにより資料化を進める。そのうえで、遺構の特徴に応じて、建築学・土木工学・地質学的な分析を試み、戦争遺構の実態と特徴を正確に把握する。歴史学によるアプローチとしては、戦時日誌や引き渡し目録の内容精査に加えて、地元郷土史家らが集積した大社基地に関連する各種資料を整理・検討することで、大社基地をめぐる史実を可能な限り復元する。
また、調査ならびに分析と並行して、戦争遺跡の活用の方向性を探るため、公共考古学、公共歴史学、建築学などまちづくりの視点にかかわる先行研究や実践例を点検し、現状の課題を明らかにする。

大社基地遺跡群主滑走路01(GoogleEarthより作成) 地下壕の内部

(左:大社基地遺跡群主滑走路01(GoogleEarthより作成)/右:地下壕の内部)

 

研究参加者

岩本  崇(法文学部准教授/考古学、※プロジェクト代表者)
平郡 達哉(法文学部准教授/考古学)
板垣 貴志(法文学部准教授/近現代史学)
清原 和之(法文学部准教授/アーカイブズ学)
会下 和宏(総合博物館教授/博物館学・考古学)
千代 章一郎(総合理工学部教授/建築学)
石井 将幸(生物資源化学部准教授/土木工学)
上野 和広(生物資源化学部助教/土木工学)
亀井 淳志(総合理工学部教授/地質学)
三原 一将(出雲弥生の森博物館/学芸係係長)